「ブエノスアイレス午前零時」感想 ネタバレ注意

昼公演を3回見ました。2日・11日・16日でさいごはFC席の私史上いちばん近い席でした。やはり近ければ近いほど楽しめると素直に言います。
だって目の前に転がってくるごうくんの頭がある。黒くて艶のあるきれいな髪をジーっと見てしまったから。今回の髪型は今までの役の中で一番好きかも知れない。
1幕目はミツコ中心の舞台で流れるようにしゃべり続ける原田さんに貫禄を感じた。若いミツコのほうも活発にしゃべりまくり歌すら歌う。なのに、なのにです、カザマは地味な衣装のまま延々と床のモップ掛けを続けている。舞台上にずっといるのにセリフがとにかく少ないのが情けないし段々不満になってくる演出の妙。ニコラスはニコラスで情けない下っ端のパシリの役柄。情けないと受け取ったわたしが間違っていないのはパンフレットで確認してしまった(苦笑)これまでかかわった監督同様に今回も森田さんはそういう役を求められ引き受けていらっしゃる。かっこいい役だけだったらだれにでもできるのだから、と思うことにしましょう。

カザマはだいたい平坦で静かに話す。覇気のなさが特徴のようだ。ニコラスは若いミツコと二人きりの時の甘い声が格別に良い。これってラブストーリーなんだったと思う(その視点は持たないで見ていたのに思い知らされる)。やさしい声で話すときは犬の舞台の幸人の声を思い出す。あの舞台はずっとしゃべっていたから耳についているのかもしれない。セリフはしっくりなじんでいる感じで芝居がかっていない。シーンによって意識して低めの声で話す時はすごい男前で女性が惹かれて当然と思った。わたしが知っている限りのごうくんの素の声はどこにもない。一瞬甘えた感じの話し方が聞こえたりしたけどすべて演じている役がからだに降りて出てくる声だと思う。

わたしの記憶は信用がないのだけど2回目に見た時は装置の移動が減った気がした。もうそこがどっちでもカザマと呼ばれたら現代の東北地方の温泉地でニコラスと呼ばれたらブエノスアイレスの港の酒場なんだと割り切ったように感じた。カモメの鳴き声もアクセントになっていた。衣装もほとんど変えないまま行ったり来たりする面白さ。他のキャストは基本的にきちんと衣装を替えるけど共通した性格や立場の役をそれぞれ演じていてわかりやすい。進行につれてカザマ自身がミツコの話にのめりこみ混乱していく様はまさに観客の混乱でもあり共感させてくれる作りなんだと思った。そして原作に敬意を表したあの終わり方がたまらなく好き。これはほんとうに1幕を見ただけではわからないことだった。正直言うと2幕目だけでも成立してしまうような後半の内容の濃さ。ホテルの社長とカザマとの静かな語りのシーンにわたしはこういう舞台が見たかったんだと痛感した。さらにはここまでのダンスがなんだったんだと叫ばせるようなソロのダンスの美しさ。*1 これだからずっとファンでいるんだ、この人はわたしのプライドなんだと再確認。衣装の力を借りないそのギャップが好きだけど贔屓目かしら。犬に続いて踊る森田さんを見せてもらえたことに心からお礼を言いたいです。ありがとうございました!

*1:2回目のときはすごくキレキレに見せてくれた。3回目に見た時は違う踊り方だった。そのシーンの前に2人のミツコと踊る時とは明らかに別の人で、カザマが従業員の義務として練習してうまくなったように見えた。わたしの感じ方だけど2回目に見た時はカザマでなくモリタでカーテンコールにつなげるベストなカッコよさを見せてくれたのだ